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AIに「会社の地図」を渡すと、回答精度が跳ね上がる理由

社内AIの回答品質スコアが8点から119点まで跳ね上がった医療スタートアップUbie社の実測事例を解説。カギは「会社の構造を示す地図」と「その都度の検索」を組み合わせる設計にありました。中小企業が自社の業務知識を資産化するヒントを紹介します。

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AIに「会社の地図」を渡すと、回答精度が跳ね上がる理由

AIの回答精度が、15倍になった。

何も参照させない状態では8点。地図と検索を組み合わせた状態では119点。150点満点の品質スコアで、AIアシスタントの回答は約15倍に跳ね上がりました。舞台は医療領域のスタートアップ、Ubie社です。AIアシスタントに社内の込み入った質問をしたとき、もっともらしいが的外れな答えしか返ってこない——という多くの企業が抱える悩みを、独自の工夫で乗り越えた記録が実測データ付きで報告されています(出典:note、著者kunpe氏、2026年7月21日 https://note.com/ymdpharm3/n/n8515d151e56d)。

「まとめておいて」への、もっともらしい嘘

社内で使われているある社内システムについて、AIアシスタントに「最近の動きをまとめておいて」と頼んだところ、返ってきたのはそれらしく整った文章でした。しかし中身をよく読むと、そのシステムが何であるかをAI自身が理解しないまま、推測で埋めた要約だったといいます。

これは笑い話ではありません。一般的な大規模言語モデルは、世の中の膨大なテキストから学習していますが、あなたの会社の組織図も、プロダクトの呼び名も、社内特有の略語も知りません。知らないことを尋ねられると、もっともらしい文章で埋めてしまう——これがAI活用における根深い問題です。検索範囲を広げれば解決するように思えますが、それでは時間がかかりすぎたり、そもそも何を検索すべきかをAI自身が判断できなかったりします。

会社に足りなかったのは「地図」だった

この壁を越えるヒントとして紹介されているのが、スタートアップ育成で知られるY Combinatorが提唱する「Company Brain(会社の脳)」という考え方です。これは「会社がどう働いているかの、生きた地図(living map of how a company works)」と定義されています。

重要なのは、これが単なる社内wikiや議事録の集積ではないという点です。組織、プロダクト、データ資産、会議体、用語といった会社を構成する要素と、それらの間の関係性そのものを構造化して持たせる発想です。AIに「何を検索すべきか」を教える前に、「会社がどういう構造でできているか」を教えてしまう。これによって、AIは推測に頼らず、事実に基づいた回答ができるようになります。

人間は枠だけ決め、中身はAIに書かせる

この地図づくりで注目すべきは、人間とAIの分業設計です。Ubie社では、この構造をオントロジー(概念体系)として、1つの概念を1つのYAMLファイルに記述する「カード」形式で構築しました。

ここで人間が決めたのは、カードの「型」(組織、プロダクト、データ資産、会議体、用語など)と、カード同士をつなぐ「関係の種類」(6種類)だけです。実際のカードの中身——どの組織にどんなプロダクトが紐づくか、どの用語が何を指すか——は、AIが社内の活動ログを読み込んで自動生成しました。人間が設計図を描き、AIが実測データを埋めていく。この役割分担こそが、この取り組みの本質です。

結果として出来上がった地図は、カード599枚、カード間の関係1,179本、別名(エイリアス)3,274個という規模になりました。これだけの情報を人手だけで整備しようとすれば、相当な工数がかかったはずです。地図を検索する側の仕組みも、名前引き・関係たどり・検索語生成という3つの機能に絞り込み、AIアシスタントが自然に呼び出せる形で社内に配布しています。仕組み自体は最小限に留め、労力は「地図の中身をどう正しく埋めるか」に集中させたのがポイントです。

なぜ地図だけでは43点なのに、検索と組むと119点まで跳ねるのか

この取り組みの説得力は、実測評価にあります。評価は、社員が実際にSlackで発した業務上の疑問をもとにデータを作成し、5つの条件で品質スコア(150点満点)を比較しました。

  • 何も参照させない場合:8点(品質の下限)
  • 地図(オントロジー)のみ参照:43点
  • 社内ログをその都度検索:112点
  • 地図と検索の併用:119点
  • 社内ログを全件網羅して検索:125点(品質の上限)

ここで見落とせないのは、地図単体のスコアがなぜ43点に留まるのか、という点です。地図には組織構造や用語の定義といった「変わらない事実」しか載っていません。進捗状況や数値のような、いま起きていることは地図のどこにも書かれていないため、地図だけで答えようとすると、鮮度が必要な質問には答えられないのです。

ところが、この地図と検索を組み合わせると、検索単体の112点を上回る119点まで跳ね上がります。地図は答えそのものを持っていなくても、「どの組織の、どのプロダクトについて、どの用語で検索すべきか」という道しるべを検索に渡すことができるからです。的外れなキーワードで社内ログを検索して空振りする、という事態が地図によって激減する。つまり地図は、それ単体で価値を出す装置ではなく、検索の精度を引き上げるための索引として効いているわけです。

さらに注目すべきは、全件網羅で検索した125点という上限との比較です。この条件は1回答を出すのに8分以上かかっており、現実の業務では到底使えません。地図と検索を併用した119点は、実用に耐える速度を保ちながら、この非現実的な上限との差をわずか6点まで縮めています。安定した骨格は地図に、変化する肉付けは検索に任せる——この線引きが、精度と実用性を同時に満たす答えを生み出したのです。

この発想は、AI研究者のAndrej Karpathy氏が提唱する「LLM Wiki」の考え方とも重なります。検索でその都度かき集める方式では知識が積み上がっていかないため、AI自身が構造化された知識を維持し続ける複利的な方式が望ましい、という指摘です。また、データ分析基盤Palantir Foundryが「データを集める(パイプライン)、業務の意味でモデリングする(オントロジー)、現場が使う(アプリケーション)」の三層で構成されているという指摘とも通じるものがあり、業務知識を構造化する発想は業界を超えて共通の潮流になりつつあるようです。

中小企業は、ここから何を判断すべきか

見落とせないのは、このオントロジー基盤の構築が、わずか2日程度で行われたという事実です。人間が決めるのは型と関係の種類という骨格だけで、中身の生成はAIに任せる——この分業があるからこそ、大規模なプロジェクトを組まずとも数日で着手できます。人手も予算も限られる中小企業にとって、これは重要な意味を持ちます。専任チームを新設せずとも、まず自社の組織・製品・用語の骨格を洗い出すところから始められるからです。

すでにUbie社では、社員が個人のAIアシスタントから地図を参照するだけでなく、社内で稼働する各種の業務エージェントにもこの仕組みが組み込まれています。さらに、新入社員のオンボーディングに活用する検討も進んでいるといいます。会社の構造を理解したAIは、新人研修の負担を減らす教育担当としても機能し得るということです。

そして視野はさらに先へ向かっています。著者はUbie社が保有するこのオントロジー基盤について、社内業務の効率化にとどまらず、事業価値そのものに変換する展開を見据えていると述べています。具体的には、医療ドメインの構造や現場の暗黙知そのものを地図に載せることが検討されているとのことです。つまり、社内向けの効率化ツールとして始まった仕組みが、将来的には自社の専門知識を対外的な価値提供に転換する基盤になり得る、ということです。

中小企業にとっての論点は明確です。自社が長年培ってきた業務知識や暗黙知は、今は特定の社員の頭の中にしか存在していないかもしれません。それを構造化して「地図」にする取り組みは、AIの回答精度を上げるだけでなく、いずれ自社の専門性そのものを資産として可視化し、事業の武器に変える一歩になり得ます。まずは自社の組織や用語、主要な業務プロセスといった「変わらない事実」を洗い出すところから、検討を始めてみてはいかがでしょうか。


参考: https://note.com/ymdpharm3/n/n8515d151e56d

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